Part1長期投資の有効性を探ろう

周期的に回復しながら成長する世界経済

世界の株式市場は、さまざまな要因で変動します。各国の政治や経済はもとより、個々の企業業績、経済的に結びつきの強い国の情勢等にいたるまで多岐にわたります。1997年のアジア通貨危機、2001年のITバブル崩壊、サブプライムローン問題を発端とした08年のリーマン・ショックなどが世界の株式市場を大きく変動させた代表的な出来事です。短期的な売買で利益を得るには、複雑に作用し合う世界経済のトレンドを常にとらえることが必要です。これは経験豊富な運用のプロでも非常に難しく容易なことではありません。「資産運用は考えているけれど、充分な時間を取ることは難しい」「金融商品を選ぶ自信がない」という方には、相場の平均的な上昇を味方につける「長期投資」をおすすめします。

図1は、1989年12月末を100とし、2014年11月までの国内株式と外国株式の動きを表したグラフです。24年間にそれぞれどれだけトータルリターン(総収益)を上げたかを示しています。国内株式はここ24年間、89年末の水準を上回っておらず、14年11月末時点では、89年末と比較して約33%のマイナスです。ただ、足下では経済政策「アベノミクス」の効果により株式市場は回復基調を強めており、指数上昇への期待が高まっています。一方、外国株式を保有し続けた場合は、ドル建てでは約9倍、円建てに換算しても、約7倍のリターンを生んでいます。

図1 国内株式と外国株式の長期トータルリターン(総収益)比較  <1989年末=100>(月次データ:1990年1月~2014年11月)
  • *国内株式=TOPIX配当込み指数
    外国株式(ドル)=MSCI KOKUSAI(日本除く)株式指数<ドル建て>
    外国株式(円)=MSCI KOKUSAI(日本除く)株式指数<円換算>
    (出所)ブルームバーグを基に東海東京証券作成

市場は、時に予想もしない出来事で大きく下落する場面があります。過去24年で最大の下げ幅を記録した08年のリーマン・ショックでは、外国株式(ドル建て)は10月のわずか1か月間で約20%下落、その後も値下がりが続き09年2月には下落前の08年5月の水準から、瞬間約50.6%安まで下落しました。株価の下落を恐れた投資家のなかには、損失が出ることを承知のうえ安値で売った人も少なくありませんでした。しかし、50.6%の値下がりはわずか約2年間で元の水準まで戻り、長期的に見れば、6年をかけて約40%の上昇を記録しています。「資産運用は長期投資と余裕資金で臨むことが重要である」ことの端的な事例といえるのではないでしょうか。

長い期間で外国株式の推移を見ると、一時的に大きく下げる局面はあっても、その後に相場は回復していることがわかります。世界経済は周期的に回復しながら成長する傾向があることを考えれば、長期投資の視点を利用してみるのも良いかもしれません。図1参照のとおり、日本株式のみの長期投資は報われていません。そこで次に分散投資をご紹介します。

値動きの異なる資産を組み合わせる分散投資

インフレに強い資産、デフレに強い資産というように、資産にはそれぞれ特性があり、経済状況などの影響で各資産の年間収益には大きな違いが生まれます。1つの資産だけに投資することは、ハイリスク・ハイリターンです。そこで検討したいのが、複数の資産や国、投資する期間に投資することでリスクを低減する「分散投資」です。長期で行なえば、さらなるリスクの抑制につながります。

個人の方が資産運用を行なう上で中心となる投資対象は、国内外の株式や債券、不動産などです。海外資産は、「先進国」と「新興国」という区分でおおむね分けられます。過去の指標を見ると、日本株式と外国株式では、しばしば相反する動きを見せています。値動きが異なる可能性がある資産を組み入れることで分散効果が期待できます。

図2は、2000年から2014年(2014年は12月10日時点)まで1年ごとに各資産の収益ランキングを示したものです。2000年からの15年間では、日本株式と外国株式、債券に均等に投資した場合の「内外分散投資」は、2000年、02年、08年、10年、11年を除きプラスのリターンを記録しています。リーマンショックの影響からほとんどの資産がマイナスとなった08年でも、分散投資を行なっていれば、国内株式あるいは外国株式のみに投資するよりも損失を抑えることができています。これは、分散投資は値動きの異なる資産を組み合わせることでリターンとリスクが平準化しているからです。分散投資は、投資資産全体の価格の変動幅を抑え、運用効率のアップを目指すことができる投資手法といえるでしょう。

図2 代表的な資産の年間収益の推移(年次データ:2000年~2014年)
  • *「内外分散投資」=国内株式、外国株式(円)、国内債券、外国債券(円)への均等配分(平均)、「長期平均」=2000年から2014年までの歴年平均
  • *2014年は12月10日時点
  • *国内株式=TOPIX配当込み指数、外国株式=MSCI KOKUSAI(日本除く)株式指数、国内債券=ブルームバーグEFFAS日本国債指数、外国債券=バークレイズ世界債券(日本除く)指数、預金=日本キャッシュLIBOR指数、内外分散投資=国内株式、外国株式(円)、国内債券、外国債券(円)のリターンを均等配分(平均)したもの
    (出所)ブルームバーグを基に東海東京証券作成

分散投資ができる代表的な商品が投資信託です。個人では投資が難しい外国株式や債券などさまざまな資産に投資できます。ファンドマネージャーと呼ばれるプロが運用するため、投資対象の選択はもちろん、リスクを低減するための資産の組み合わせなどすべてを任せられる点がメリットです。特定の資産のみに投資するタイプや、「バランス型」と呼ばれる複数の資産に投資するタイプなどがあります。特にバランス型は分散投資に適しています。投資信託を購入する際には、事前にどのような資産が組み入れられているか確認し、投資する必要があります。

投資信託のもうひとつの特徴は、1万円程度の資金から投資できる手軽さです。個別の株式や債券を購入する場合に比べ、少額の資金で分散投資が実現できます。
商品選択やタイミングを判断する自信がない方は、投資信託を活用した分散投資を実践してみるといいでしょう。

利益が利益を生み出す複利効果

複利効果とは、元本に利息を加えた合計が新たな元本となり、継続的に運用されて元本がどんどん膨らんでいく効果のことです。元本だけに利子がつく「単利」と比較すると、年を経るごとにその効果に差が出ます。単利の場合、たとえば100万円を年率2%で預金すると1年目には102万円、2年目も100万円に利子の2万円だけがつき、合計は104万円となります。複利の場合、同じ利率で預金すると1年目は102万円で単利と変わりませんが、2年目には2万円の利子を含めた102万円を再び年率2%で預金することになり、その合計は104万400円となります。複利は、利子にも利子がつくため、スタート時は小さな利益でも、確実に積み重ねることによって、まとまった利益に成長させることができます。いかにして複利効果を生み出すかが、資産形成における大きなポイントです。

図3は、元本100万円を年率2%で30年間、「単利」と「複利」でそれぞれ運用した試算です。単利の30年後に受け取れる総額は160万円となります。一方、複利の30年後に受け取れる総額は約181万円で、複利効果は約21万円です。複利は元本を単利よりも多く増やすことができる特徴があります。

図3 元本100万円の運用試算

図4は、元本100万円を年率0.1%、2%、5%で30年間複利運用をした場合の試算です。年率5%では、30年で実に332万円のリターンを得ることができます。総額では、2%に比べて251万円、0.1%とは329万円の差が生じます。

図4 元本100万円の年率別複利運用試算

複利効果は「金額」「期間」「利回り」の3つを活用することで相乗的に効果が高まります。運用資金が大きいほど、複利効果で増える金額も大きくなります。また、運用の期間が長いほど乗数が膨らむため、一般的に長い期間を運用できる若い方ほど複利効果のメリットを受け取ることができます。つまり、複利効果を狙った投資を行なう場合は、資産運用を早くはじめるほど有利というわけです。効果をさらに高めるには、運用利回りを大きくすることが必要です。長期投資により、リターンがリターンを生む複利効果を味方につけましょう。

ただ、現実の投資にはリスクが無いということは在り得ません。ダウンサイドリスクを抑制するための分散投資も必要でしょう。

長期投資をすることでリスクを減らしリターンを増やせるといったメリットがあります。