相続に関するお手続き:将来の相続に備えるために
C-3相続対策の基本
相続人とは
亡くなった財産所有者を「被相続人」、財産を受け継ぐ人を「相続人」といいます。「法定相続人」とは、配偶者や限られた親族など民法で決められている相続人のこと。民法では被相続人との関係によって遺産分割の割合も決められています。これを「法定相続分」といいます。
遺言書とは
遺産分割で何より優先されるのは、被相続人の残した「遺言書」の内容です。遺言書がない場合は、法定相続制度を基本に相続人全員の「遺産分割協議」によって財産を分けることになります。遺言の方法は民法で定められており、これに沿っていないものは無効となります。
遺言は「遺留分」の減殺請求をされることも
遺留分とは、相続人が取得できる最低限度の相続分として民法が保証している割合のこと。遺言書などによって遺留分を侵害された相続人は、遺留分の財産を請求する権利があります。
年々ふえている相続トラブル
相続発生後に遺族が悩むケースは多く、家庭裁判所への相談件数は年々ふえています。円満な相続のためには、民法や手続について理解し、時間をかけて備えることが必要です。
相続税とは
相続する財産の価格が基礎控除額を超える場合には、相続税を納付しなくてはなりません。相続税は被相続人の死亡から10ヵ月以内の申告・現金一括納付が基本。相続税を納税する必要がある人は、全体の約8%といわれています。
相続対策3つの柱
あなたに必要な相続対策は?
3つの相続対策の具体例
①遺産分割対策
生前に指定する | 遺言の作成・生命保険 |
---|---|
生前に直接渡す | 生前贈与 |
②納税資金対策
保有資産の見直し | 不動産の売却、物納の検討、準備 |
---|---|
納税資金の確保 | 生前贈与・生命保険 |
③相続税軽減対策
相続財産評価額を下げる | 小規模宅地等の評価減の特例 等 |
---|---|
非課税財産を活用する | 死亡保険金の非課税制度 |
相続財産を直接減らす | 生前贈与 |
C-4現状の把握
どんな相続対策が必要かは、資産内容や家族構成、そして被相続人の希望によって違ってきます。法定相続人となるのは誰なのか。どんな財産があるのか。相続税が発生する可能性はあるのか。まずは現状を把握することからスタートしましょう。
法定相続人は?法定相続分は?
資産の種類と正味財産額は?
相続人の確認とともに、現時点での財産の種類と額を把握しておきましょう。プラスの財産とともに債務も書き出し、財産目録を作成します。プラスの財産から債務を引いた額が「正味財産額」です。財産目録は、遺言書作成や遺産分割協議の際にも、基本資料となります。
正味財産額は基礎控除額を超えている?
相続税法ではある程度の財産までは相続税がかからないようになっており、これを「基礎控除」といいます。正味財産額が基礎控除額より大きい場合には、相続税がかかります。
※2015年以降の相続・遺贈に適用
【例】夫が亡くなり、相続人が妻と子供2人だった場合3,000万円+600万×3人=4,800万円
相続税の特例
●小規模宅地等の評価減の特例
被相続人の住居や事業用宅地については、一定条件のもとで評価額を減額する特例があります。
●配偶者の税額軽減
配偶者の相続する財産が法定相続分以下、もしくは1億6千万円以下であれば、配偶者に相続税は発生しません。
【例】
遺産額 | 配偶者の相続分 | 相続税額 軽減 |
備考 | |
---|---|---|---|---|
ケース@ | 1億円 | 1億円(100%を相続) | 全額軽減 | 法定相続分を超えているが 1億6000万円以内であるため |
ケースA | 4億円 | 2億円(法定相続分 1/2を相続) |
全額軽減 | 1億6000万円を超えているが 法定相続分以内であるため |
※2015年以降の相続・遺贈に適用
※相続財産は法定相続人が法定相続割合により取得したものと仮定しています。配偶者の税額軽減を適用後の金額を表示しています。
C-5遺産分割対策
家族間の無用な争いを避けるため、自分の財産の分け方を自分で決めるため、公式な遺言書を作っておくことは有効な方策です。できれば家族と話し合い、全員が納得できる内容の遺言書を正式に作成するのが理想。また生命保険や生存贈与を活用して、バランスのとれた遺産分割をめざすこともできます。
遺言書によるお手続き
遺言書の作成
遺言書作成によって可能になること
遺言書の種類
民法で定められている遺言書の方式は「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」などがあり、これに則っていないものは効力がありません。
種類 | 自筆証書遺言 【本人が自筆で作成する】 |
公正証書遺言 【本人が口述し公証人が筆記する】 |
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作成方法 | 【用件】
|
|
作成場所 | 自由 | 公証人役場 |
証人 | 不要 | 証人2人以上必要 |
家庭裁判所 の検認 |
必要 | 不要 |
特徴 | 【メリット】
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【メリット】
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【デメリット】
|
【デメリット】
|
生命保険の活用
生命保険は特定の相続人を受取人に指定できるので、バランスのよい資産分割に活用できます。1人の子に自宅などの不動産を相続させる場合など、他の子には代償金として保険金を用意する、といった対策を立てられます。
生前贈与の活用
事業の承継など、法定相続分と異なる分割をしたい場合、贈与税の非課税枠を使って、相続発生の前に財産を移行させておくこともできます。また贈与税の配偶者控除を活用すれば、非課税で自宅の所有権を妻または夫に変更することが可能です。
C-6相続税軽減対策
家族のこれからの生活のために、少しでも多く財産を遺してあげたい。築いてきた財産が相続税というカタチで損なわれるのはつらい。相続税の軽減対策はいろいろありますが、大切なのは財産や相続人の現状と未来を考え、自分に合った方法を見きわめること。必要のない対策は、将来リスクになる可能性もあります。
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生前贈与の活用
財産を相続発生の前に贈与します。贈与税の負担税率が、相続税の適用税率を下回る場合に有効な方策です。
(1)暦年課税
少額の贈与を長く行うことが可能。相続財産を減額することができます。
- 年間110万円(基礎控除)以下の贈与なら非課税。
- 年間110万円を超えた場合は10〜55%の累進税率の贈与税。
- 相続開始前7年以内に、相続財産を取得した者への贈与財産は、相続財産に加算され相続税が課税される。
※2023年以前の贈与は相続開始前3年以内
特例 : 婚姻期間20年以上の夫婦間の居住用不動産贈与は2,000万円まで非課税。
●贈与税の計算式
対象受贈者によって税率が異なります
①特例贈与: 18歳以上の子・孫等へ贈与する場合
②一般贈与: それ以外の方へ贈与する場合
●贈与税速算表
贈与税の税率 | ①【特例贈与】 | ②【一般贈与】 | |||
---|---|---|---|---|---|
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 (万円) |
税率 | 控除額 (万円) |
|
200万円以下 | 10% | − | 10% | − | |
200万円超 | 300万円以下 | 15% | 10 | 15% | 10 |
300万円超 | 400万円以下 | 20% | 25 | ||
400万円超 | 600万円以下 | 20% | 30 | 30% | 65 |
600万円超 | 1,000万円以下 | 30% | 90 | 40% | 125 |
1,000万円超 | 1,500万円以下 | 40% | 190 | 45% | 175 |
1,500万円超 | 3,000万円以下 | 45% | 265 | 50% | 250 |
3,000万円超 | 4,500万円以下 | 50% | 415 | 55% | 400 |
4,500万円超 | 55% | 640 |
●贈与税額一覧表
基礎控除前の 贈与金額 |
①特例贈与(実効税率) | ②一般贈与(実効税率) | ||
---|---|---|---|---|
100 | 0.0 | 0.0% | 0.0 | 0.0% |
200 | 9.0 | 4.5% | 9.0 | 4.5% |
300 | 19.0 | 6.3% | 19.0 | 6.3% |
400 | 33.5 | 8.4% | 33.5 | 8.4% |
500 | 48.5 | 9.7% | 53.0 | 10.6% |
600 | 68.0 | 11.3% | 82.0 | 13.7% |
700 | 88.0 | 12.6% | 112.0 | 16.0% |
800 | 117.0 | 14.6% | 151.0 | 18.9% |
900 | 147.0 | 16.3% | 191.0 | 21.2% |
1,000 | 177.0 | 17.7% | 231.0 | 23.1% |
2,000 | 585.5 | 29.3% | 695.0 | 34.8% |
3,000 | 1,035.5 | 34.5% | 1,195.0 | 39.8% |
4,000 | 1,530.0 | 38.3% | 1,739.5 | 43.5% |
5,000 | 2,049.5 | 41.0% | 2,289.5 | 45.8% |
(2)相続時精算課税制度
一度に多額の財産を贈与できます。相続財産を減額することはできませんが、相続税がかからない場合は、納めた贈与税は戻ります。
- 60歳以上の親・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与は、2,500万円(特別控除)まで非課税。
※2024年以後の贈与は、年間の基礎控除110万円を控除した金額が累計2,500万円まで非課税。 - 2,500万円を超える部分は、20%の贈与税がかかる。
- 相続時精算課税制度を適用した贈与財産は、相続時にすべて相続財産に加算される。
※2024年以後の贈与は、年間の基礎控除110万円を控除した金額を加算。
特例 : 一定の住宅取得等資金を贈与する場合、親の年齢を問わず相続時精算課税を適用できます。
(3)住宅取得等資金の贈与税の非課税制度
父母や祖父母など直系尊属からの贈与により取得した住宅取得等資金について、一定の要件のもと贈与税を非課税とする制度です。
- 父母や祖父母など直系尊属から18歳以上の子や孫等の直系卑属(合計所得金額2,000万円以下)への住宅取得等資金の贈与は一定額まで非課税。
- 自己の居住用に供する住宅の新築もしくは取得または増改築等をした場合で一定の要件に該当するものが対象。
- 非課税枠の限度額を超える場合の残額は、暦年課税または相続時精算課税のいずれかを適用できる。
- 非課税枠部分については、相続開始前7年以内の贈与財産の加算は適用されない。
※2023年以前の贈与は、相続開始前3年以内。
(4)教育資金の一括贈与等に係る贈与税の非課税措置[2026年3月31日まで]
30歳未満の子・孫などの直系卑属の教育資金のために、祖父母、父母などの直系尊属が金融機関に拠出した金銭等で、受贈者1人当たり1,500万円までの金額の贈与が非課税となる制度です。
非課税財産の活用
生命保険金非課税枠の活用
生命保険金には<500万円×法定相続人の数>という非課税枠があります。非課税枠内であれば受取保険金は相続財産に加算されず、払い込んだ保険料の分だけ、相続財産を減らすことになります。
「契約者(保険料負担者)=被保険者」で支払われた死亡保険金を相続人が受け取った場合
非課税財産の例
墓地・墓石・仏壇などの祭祀財産は、非課税財産です。相続開始後の購入では非課税になりませんので、余裕資金があるなら生前に購入しておいた方が得策です。
相続財産の評価額を減らす
不動産の有効活用
遊休地にアパートなど貸家を建築すれば、更地よりも相続税評価が下がります。また建築費用の現金支出によって、相続財産を減少させることに。建築費用を借り入れる場合も、相続財産から債務として控除されます。さらに相続税資金として家賃収入を蓄えることも期待できます。
(1)土地:路線価または倍率方式
更地の評価 | 路線価の価格×100% |
---|---|
貸家建付地の評価 | 路線価の価格×[1-(0.7(借地権割合※)×0.3(借家権割合※))] ⇒約80%相当 |
※借地権割合等は地域によって異なります。
(2)建物:固定資産税評価額…概ね建築資金×約60%
貸家の評価 | 固定資産税評価額×[1-0.3(借家権割合※)]⇒約70%相当 |
---|
C-7納税資金の準備
相続税は、原則10ヵ月以内の現金一括納付。遺された家族が資金繰りに困ることのないよう、納税資金が不足しているなら事前に対策を立てることをおすすめします。不動産資産が多い場合、納税のため相続開始後に慌てて売却するのは得策ではありません。早く対策を始めるほど、生命保険や資産の運用・売却などでじっくり備えることができます。
預貯金等の贈与
生前贈与の非課税枠を使い、預貯金や株債券などの金融資産の名義を変更して納税に備えておきます。
生命保険の活用
生命保険は家族の暮らしを守るだけでなく、相続時に現金で支給されるので、相続税資金の準備にも有効です。その上、被相続人が契約者である生命保険金には(500万円×法定相続人の数)という非課税枠があるので、相続税軽減効果も。また相続人が契約者・受取人となる場合では相続税でなく、受取人への所得税・住民税となり、これも相続税軽減対策になる可能性があります。
生命保険の加入パターン
保有資産の見直し
不動産の売却
財産構成で不動産が多く金融資産が少ない場合、売却して金融商品で運用するのも一策です。相続が発生してから急いで売却するよりも、じっくりタイミングを見きわめて現金化することができます。
物納資産の準備
延納でも現金での納付が困難な場合は、物納が認められることもあります。物納が認められるのは以下の財産です。ただし日本国内のものに限定されます。
不動産を物納する場合、実測面積や隣地との境界が不明確だと許可されません。物納の条件をクリアできるよう、早めに対策を立てておきましょう。
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上記の内容は一般的な説明を目的としており、投資勧誘を目的としたものではありません。上記の内容は2019年3月末現在の各種制度をもとに作成しており、内容は将来変更となる可能性があります。税務・法務等の詳細につきましては、税理士、弁護士、司法書士等の専門家にご相談いただきますようお願いいたします。